大判例

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東京地方裁判所 平成元年(特わ)1074号 判決

本店所在地

東京都中央区銀座二丁目八番五号

ニッセイ通商株式会社

右代表者代表取締役

楢林丘至

本籍

東京都新宿区坂町一〇番地

住居

東京都目黒区中目黒一丁目一番二六-二二一号

秀和レジデンス

会社役員

楢林丘至

昭和一四年四月一五日生

本籍

東京都文京区白山四丁目三二番

住居

東京都文京区白山四丁目三二番一〇号

会社役員

楢林堯典

昭和一九年一〇月三一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人ニッセイ通商株式会社を罰金一億六〇〇〇万円に、被告人楢林丘至を懲役二年に、被告人楢林堯典を懲役一年六月に各処する。

被告人楢林堯典に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

事実

(罪となるべき事実)

被告人ニッセイ通商株式会社(以下、被告会社という。)は、東京都中央区銀座二丁目八番五号に本店を置き、不動産の売買、賃貸、管理、仲介等を目的とする資本金三〇〇〇万円(昭和五九年六月二一日以前の資本金は一〇〇〇万円)の株式会社であり、被告人楢林丘至(以下、被告人丘至という。)は、昭和五〇年八月から被告会社の代表取締役となり、被告会社の業務全般を統括しているもの、被告人楢林堯典(以下、被告人堯典という。)は、昭和五九年五月から被告会社の取締役となり、営業全般を総括処理しているものであるが、

第一  被告人丘至は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入及び架空支払手数料を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五八年六月一日から昭和五九年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九八三五万九一六八円(別紙1修正損益計算書参照)で、課税土地譲渡利益金額が二億六七二四万二〇〇〇円あったのにかかわらず、昭和五九年七月三一日、東京都中央区新富二丁目六番一号所在の所轄京橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が零で、課税土地譲渡利益金額が七七二三万二〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一四六二万七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成元年押第九〇九号の1)を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額九四二二万八二〇〇円と右申告税額との差額七九六〇万七五〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れ

第二  被告人丘至、被告人堯典は、共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、架空仕入を計上し、手数料を水増計上するなどの方法により、所得を秘匿した上、昭和六〇年六月一日から昭和六一年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九億四八五五万八九〇三円(別紙3修正損益計算書参照)で、課税土地譲渡利益金額が九億二七一一万一〇〇〇円あったのにかかわらず、昭和六一年七月三〇日、前記京橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億五二三万四一八四円で、課税土地譲渡利益金額が七三九八万二〇〇〇円であり、これに対する法人税額が五八三三万八九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成元年押第九〇九号の2)を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額五億九四一二万四〇〇〇円と右申告税額との差額五億三五七八万五一〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人丘至の当公判廷における供述

一  被告人丘至の検察官に対する平成元年六月五日付、同月一四日付の各供述調書

一  奥山英雄の検察官に対する供述調書

一  収税官吏作成の仕入高、支払手数料、受取利息の各調査書

一  収税官吏作成の領置てん末書

一  検察事務官作成の土地譲渡利益金額、被告会社の概況の各捜査報告書

一  税務署長作成の証明書

判示冒頭及び第二の各事実について

一  被告人堯典の当公判廷における供述

判示第一の事実について

一  被告人丘至の検察官に対する平成元年六月六日付供述調書

一  鴨野實(平成元年五月三〇日付)、徳持正雄の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の欠損金の当期控除額の調査書

一  検察官作成の捜査報告書二通

一  押収してある被告会社の昭和五九年五月期の法人税確定申告書一袋(平成元年押第九〇九号の1)

判示第二の事実について

一  被告人丘至の検察官に対する平成元年六月八日付、同月九日付の各供述調書

一  被告人堯典の検察官に対する供述調書四通

一  鴨野實(平成元年六月六日付)、堺嘉孝、堀義雄(三通、内一通は謄本)、四宮亮一(二通、各謄本)の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の売上高、交際接待費、事業税認定損、交際費損金不算入額の各調査書

一  検察事務官作成の仕入高の金額異動の捜査報告書

一  押収してある被告会社の昭和六一年五月期の法人税確定申告書一袋(平成元年押第九〇九号の2)

(法令の適用)

罰条

被告会社の判示第一、第二の各所為

各法人税法一六四条一項、一五九条一項、情状により同条二項

被告人丘至の判示第一、第二の各所為

各法人税法一五九条一項、判示第二について刑法六〇条

被告人堯典の判示第二の所為

刑法六〇条、法人税法一五九条一項

刑種の選択

被告人丘至、被告人堯典、各懲役刑を選択

併合罪の処理

被告会社 刑法四五条前段、四八条二項

被告人丘至 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)

刑の執行猶予

被告人堯典 刑法二五条一項

(量刑の理由)

被告会社は、マンションの建設・分譲販売やホテル経営、別荘地開発事業等を行ってきたが、判示認定のとおり所得を隠匿し、二事業年度において合計六億一五三九万二六〇〇円を脱税したもので、その金額は高額であり、両年にわたるほ脱率は、八九・四パーセントと高率である。

被告人丘至は、被告会社の代表取締役として、被告会社の運転資金を確保し、経営の安定を計ろうと考え、昭和五九年五月期には、その決算期近く、二つの不動産譲渡につき、相手方に謝礼を支払い架空の「共同開発事業に係る協定契約書」や「業務委託契約書」を作成させて架空領収書を入手するなどし、昭和六一年五月期には、東京都新宿区高田馬場(以下、東京都は省略する。)の不動産物件を譲渡する際、被告人堯典とともに他の会社に謝礼を支払い、同会社を取引の中間に介在させて売上金額を除外し、更に決算期ころ、被告人堯典とともに同会社に謝礼を支払い架空の「覚書」を作成させて売上値引を計り、また、同物件につき「共同開発事業に係る契約書」を作成して仕入高を水増計上し、転売目的で入手した台東区上野物件の取引につき、謝礼を支払い架空の「共同開発事業にかかる契約書」を作成させ架空仕入を計上したもので、右事前不正行為の方法は相当多岐にわたり、巧妙である。そして、被告人丘至は、右の行為及び受取利息の一部除外により多額の所得を隠匿し、土地譲渡利益金額に対する税額を含め相当高額の税を免れさせたものである。

被告人堯典は、昭和六一年五月期、被告会社の運転資金を確保し、将来の新規企画を遂行するための資金を蓄積するため、新宿区高田馬場物件につき、売上除外と架空の売上値引に関与し、台東区上野物件につき、譲受と譲渡の仲介手数料を水増したものであり、その事前不正行為により多額の税額を免れさせたものである。

以上は、被告人らにとって不利な情状である。次に被告人らにとって有利な情状を検討する。

被告会社は、本件が摘発された後、修正申告をして、本税、延滞税等関係国税を納付し、関係地方税も納付している。そして、今後同種事態を招かぬよう、伝票類に番号を付し、帳簿類と照合するようにするなど経理体制を改善し、被告人丘至、被告人堯典以外の取締役の監督を強め再発を防止している。被告会社は、本件が摘発された後、一部金融機関や取引先の信用を失い、納税資金、運営資金にも苦慮する事態を招くなどの社会的制裁を受け、その信用回復に努めるとともに、新たに共同事業による大規模な企画を実施している。

被告人丘至は、代表取締役就任後前記の事業に従事したが、長期間にわたりその運転資金に苦慮し、昭和五八年五月期には欠損が生じ、昭和六〇年五月期にはその業績が必ずしも順調でなかったことを背景に本件犯行を犯したものである上、前記台東区上野物件を除く不動産については、いずれもホテル建設のため入手したもののその隣接地が入手できないためホテル建設を断念し手放す際、地価高謄のため予期せぬ相当多額の益金が出たためなした面があり、同被告人自身糖尿病性網膜症等に罹患し、早期に被告会社の基盤作りをしたいと考えたことも動機の一つである。そして、同被告人は、右関与してほ脱した所得につき、相手方に謝礼として支払ったものや被告人堯典が独自に管理していたものを除き、被告会社の増資資金や運転資金として使用し、あるいは預金するなどして管理し、自己の便益になんら使用していない。被告人丘至は、本件を深く悔悟し、被告会社に与えた信用失墜や損失、妻子や実父に与えた影響などを痛感し、一度は代表取締役を辞任し、本裁判などのため再び代表取締役に就任したが、今後同種脱税をしないよう自戒し、資金を工面して前記関係税を納付し、経理体制の改善の措置をとり、被告会社の信用の回復、事業の維持発展に務めている。もとより同被告人には、前科はなく、被告会社の代表取締役として長期間にわたり貢献し、一家の支柱として働いてきたものである。

被告人堯典は、新宿区高田馬場物件の売上除外、架空値引については、被告人丘至の指示了解のもとに関与したものである。被告人堯典は、台東区上野物件の水増支払金と右売上除外金の一部を将来の新規事業資金として自ら確保したが、その大半を自己が管理し、個人的には費消していない。同被告人は、自己のした行為の責任を認識し、深く反省している。そしてこれまで被告人丘至を助けて営業活動などし、相当数の新規企画を実現し、被告会社の発展に寄与し、摘発後再発防止にも協力し、家族のため働いてきたものである。

これら被告会社らに不利、有利な諸般の事情などを総合考慮すれば、被告会社については、主文掲記の罰金に処するのが相当であり、被告人丘至については、前記の情状のほか、現在の健康状態が優れないこと、被告会社の代表取締役としてその維持発展に寄与し、現在も大規模な企画を実施すべき重責にあることなどの有利な事情を十分考慮しても、同被告人自身関与した不正行為により免れた税額は相当高額であり、その果たした行為の刑事責任は重く、刑の執行を猶予することはできず、右の有利な事情は刑期で考慮し、主文掲記の実刑に処するのが相当であり、また、被告人堯典については、その責任は軽視できないが、主文掲記の刑に処した上、その刑の執行を猶予し、社会内で自力更生させるのが相当である。

(求刑 被告会社につき罰金二億円、被告人丘至につき懲役三年、被告人堯典につき懲役一年六月)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲田輝明 裁判官 柴田秀樹 裁判官 中村俊夫)

別紙1

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2

脱税額計算書

〈省略〉

別紙3

修正損益計算書

〈省略〉

別紙4

脱税額計算書

〈省略〉

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